装置や機器の操作を指示するときに意外と困るのが「右」「左」の表現です。「そんなのrightとleftだろ」と思われる方こそ、落とし穴にはまりがちです。直接、現場で教えることができれば問題ないのですが、そうではない時に備えて文章で正しく伝わる表現を学んでおきましょう。
「スライダーを右端まで移動させてください」と指示したいとき、次のA、Bのどちらが適切でしょうか。
A) Move the slider to the right end.
B) Move the slider toward the right end.
ここでは「to」と「toward」のニュアンスの違いを正しくつかめているかが問われます。どちらも「~へ」と訳しますが、「to」は「届く感じ(~のところまで)」が強く、「toward」は「届かない感じ(~へ向かって)」が強い前置詞です。
つまり、「右端」まで動かすならAが正解です。右の方に動かせばよい(端まで到達しなくてよい)のであればBでも構いません。また、「toward the right end」を一語で「rightward/右方向へ」と書き換えることも可能です。
では、下記のように指示されたら、A、Bどちらの動作をとればよいでしょうか。
Turn the knob right.
A)「ツマミを右へ回してください」
B)「ツマミを正しく回してください」
ここでは「right」をどう訳すかが問われます。rightは「右の、右へ」以外に、「正しい、正しく」という意味もあり、そのどちらでもよく使われます。 正解は、「A、Bどちらも正しい」。上記の文章であれば、実際に使われる場面で判断することもできそうですが、間違わないためにはClear(明確)な単語を用いましょう。
右回転を指示するときには、「時計回り」を意味するclockwiseを使うと、上記のような誤解が生じません。副詞でも形容詞でも使えます。
「ツマミを右へ回してください」
Turn the knob clockwise. (副詞)
Turn the knob in the clockwise direction. (形容詞)
左に回すときは、counterclockwiseです。「左の、左へ」を意味するleftも使えますが、文の構成によっては分かりづらさの原因となることがあります。動詞「leave/去る、残す」の過去形・過去分詞形と同じスペル・発音のため、区別がしづらいからです。
読み手に余計な手間と時間をかけさせない
極端な例ですが、以下の英文を解釈してみてください。
There are five dials on the panel. Turn the two dials from the left to the left, and turn the left three dials to the right.
1文目「パネル上にダイヤルが5つあります」。ここまではよいでしょう。次からが難解です。2文目前半は、Turn the two dials from the left / to the left… という区切りで「左から2つのダイヤルを/左へ回す」が書き手の意図でしょう。
しかし、読み手は次のように区切って解釈してしまうかもしれません。
Turn the two dials / from the left to the left…
「2つのダイヤルを/左から左へ回す」
「左から左へ」というのは奇妙ですから、すぐに「おかしいな」と気付くはずです。もう一度読み直せば、正しい解釈にたどり着けます。しかし、これでは読み手に余計な手間と時間をかけさせてしまいます。
2文目後半の難解さはより深刻です。leftの解釈が2通りあり、to the rightの解釈も2通りあります。しかも、どちらが正しいかを判断するヒントがありません。
…, and turn the left three dials to the right.
「左の3つを右へ回す」
「残された3つ(=右の3つ)を右へ回す」
「右側にある残された3つを回す(回転方向の指定は無し)」
これでは、意図したとおりの操作をしてもらえるかどうかおぼつきません。 混乱のもとは、同じスペルで意味の異なる単語を1つの文章で使っていることです。一意に定まる単語に置き換えれば、解決します。
There are five dials on the panel. Turn the leftmost two dials counterclockwise, and turn the remaining three dials clockwise.
「パネル上にダイヤルが5つあります。左端2つのダイヤルを左に回し、残り3つのダイヤルを右に回します」
図の説明文もしっかりと
言葉で表現するのが難しい場合、図で示すのもよい方法です。ただし、図があるからと言って説明文(キャプション)をおろそかにすると、やはり読み手は混乱します。図が分かりやすくても、キャプションが不明確だったらどうでしょうか。理解を助けるはずのキャプションが、かえって邪魔になってしまいます。[図]
商談にせよ、プレゼンテーションにせよ、業務の遂行に必要なのは、単なる英語力ではなく情報伝達力です。文章が情報伝達の妨げになってしまえば、何のために書いているのか分かりません。邪魔な文章を添えるぐらいなら、図だけで済ませた方がよいこともあります。
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