「おおよそ」の数こそ正確に|エンジニアのための伝わる技術英語:第5回

前回、canとwillの違いによる意思表現のズレについて書きましたが、ビジネスにおいて最もまずいのは数字の間違いです。エンジニアであればなおさら、数の表現には注意が必要です。

This task requires more than three operators.

 こう言われたら、必要な操作員は何人だと思いますか。
「この作業は3人以上の操作員を要す」と訳した方、残念ながら不正解です。日本語の「3人以上」は「3人」を含みますが、英語の「more than three」は「3人より多くの」という意味で「3人」を含みません。つまり必要なのは4人以上、「この作業は4人以上の操作員を要す」となります。

 「3人以上」と書くには「three or more」あるいは「at least/最少で(下限)」と書きます。

This task requires three or more operators.
「この作業は3人以上の操作員を要す」

This task requires at least three operators.
「この作業は最少3人の操作員を要す」

 同様に、「3人以下」なら「three or less」あるいは「up to three/最大で3人(上限)」、「3人未満」なら「less than three」となります。

 続いて、もう少し複雑な例文を見てみましょう。

One shareholder cannot hold more than 49 percent of the capital stock of the company.

 さて、株主は何パーセントまで株を保有できるでしょうか。

 「more than 49 percent」は「49パーセントより大きい」ので、小数第2位まで見るとすると「49.01パーセント以上」です。それが「cannot hold」なので、「この会社では、1株主は49パーセントを越えて株を保有することはできない」あるいは「1株主で49.01パーセント以上の株を保有できない」と訳せます。つまり49.00パーセントまでは保有できます。

 ずいぶんと回りくどい説明になってしまいましたが、これも技術英語の3Cから簡潔(Concise)で明確(Clear)に直すことができます。元の英文を分かりづらくしている否定形の文章を肯定形にし、「more than」が混乱を招いているので「up to/最大で(上限)」を使うとすっきりします。

One shareholder can hold up to 49 percent of the capital stock of the company.
「この会社で1株主が保有できる株の上限は49パーセントだ」

状況によっては問題なしの場合も

 ここまで読んで、「~以上」は決して「more than~」と訳せない、と考えた方がいらっしゃれば、それは早計です。1つや2つの誤差が問題にならない大きな数や、日本語で「~以上」と表現されていても「~」にあたる数値を明らかに超えている文脈では、「以上」を「more than」と訳して差し支えありません。

「日本の人口は1億2500万人以上だ」
The population of Japan is more than 125 million.

「この国は石油を1日に70万バレル以上輸出している」
This country exports more than 700,000 barrels of oil a day.

 前回の最後で「Can you make more than 100 units by tomorrow?」という例文を挙げました。これが工場で交わされた工員どうしの日常会話で、厳密な生産台数の話をしているのではないなら、「明日までに100台以上作れるかな?」「100台作れば目標達成」と解釈しても問題はなさそうです。
しかし、工場長から降りてきた指示なら、必要な台数を確認したほうがよいでしょう。「more than 100」は「100より多くの」、つまり「101台以上」ですので、この場合100台では必要な台数に届きません。この和訳による取り違えが、出荷が迫った工場では大問題になることもありえます。

技術文書に適した「約」の英訳

 「以上」「以下」「未満」のほか、数字を書くときに頻出するのは「約」の表現です。

「海面下約2500メートルのところで石油掘削中です」
They are finding oil about 2,500 meters below sea level.

「XY社は現在世界各国に約10万人の従業員がいます」
XY Corporation now has about 100,000 employees around the world.

 上記の英訳に用いた「about」は、「約、およそ[副詞]」という意味だけでなく「~についての、~に対して[前置詞]」や、「そこら中に、あちこちに[副詞]」という意味もあるので、文脈によって使い分けが必要です。

I’d like to talk about the three key features of our new project.
「新規プロジェクトの3つの要点についてお話をしましょう」

Tools lay about.
「工具があちこちに散らばっていた」

 「約」の英訳には、「about」のほかに「approximately」が使われます。英単語としては「about」の方がよく知られており簡潔(Concise)な気がしますが、技術文書では「approximately」が好まれる傾向があります。なぜなら「approximately」は「約、およそ」という意味しかなく、取り違えの心配がないからです。

Approximately 20 new employees have joined our department this year.
「今年は約20人の新入社員がわが部署に配属された。」

 数字を扱うときは、正しい数を確認することはもちろん、明確に伝えるための日本語と英語の表現の違いにも細心の注意を払ってください。

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