第4回 国際ドローンシンポジウム 講演者インタビュー|国立研究開発法人農研機構 井上氏

国立研究開発法人農研機構 
農業環境変動研究センター 特別研究員 井上 吉雄
「ドローンのスマート農業への活用 -計量・診断・精密管理と圃場G 空間データへの展開-」という内容で講演いただく井上氏。農業におけるドローンの活用方法とは何か。お話を伺いました。

【インタビュー記事(PDF)】第4回 国際ドローンシンポジウム 講演者 
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 ──農研機構さんの業務内容について、教えていただけますか?

農研機構では、国内の農業生産に関わるあらゆる分野の研究を担っています。全国各地域に農業研究センターがありますが、加えて生物資源、食品、環境などに関する各専門分野のセンターもあります。私が所属しているのは、農業環境の変動について研究するセンターです。

このセンターでは地球環境が変わっていく中で、環境に考慮しながら、いかに食糧生産を確保するかを研究しています。そのため、気象・生物多様性・物質循環・土壌・農薬・環境情報など非常に広範な研究分野をカバーしています。

戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)という国が進めているプロジェクトがあるのですが、私は、そのプロジェクトの中で生産システムのスマート化、いわゆるスマート農業に携わっています。スマート農業の中でも、特にリモートセンシング計測(対象を遠隔から測定すること)の活用に注力しています。

リモートセンシングでは、センサーを搭載するプラットフォームが色々あります。ドローン・飛行船・航空機・人工衛星などですが、私はこれまで、それらすべてを使って研究してきました。SIPのプロジェクトの中では、特にドローンと衛星の二本立てに絞って研究をしています。

──リモートセンシングは、農業以外でも活用されているのですか?

地球科学や大気・海洋科学、生態学など科学面とともに、実用的な面では災害調査や資源探査、林業や水産でも活用されています。特に水産は実用化が進んでいますね。具体的に言えば、漁場の探査です。どの辺に魚が集まりそうかわかれば、非常に効率がいいわけです。

──リモートセンシングの農業での活用方法とは?

農業分野では、大きくいうと4つの応用分野があります。1つはスマート農業での精密管理です。収量性を上げたり、品質を向上させたり、肥料を節約する。作物管理に直結する用途です。

2つめは国家統計で、つまり「今年の作況はどうなのか」を調べるために用いられます。3つめは保険や農業共済などでの災害評価での利用ですね。台風や水害などの被害の程度を調べるためにリモートセンシングが使われます。

──今回、国際ドローンシンポジウムで講演いただくテーマについて伺います。「ドローンのスマート農業への活用」という講演タイトルですが?

日本の農業は高齢化・担い手不足などの問題に直面しています。広大な土壌をいかに効率よく管理していくことができるか。私たちは、最新の技術を投入することで、その課題を克服していこうとしています。

そのために、これまで話をしてきたようにセンシングでデータを集積し、活用する。知識工学やAIも活用を考えています。そうすることで、省力化ができる。少人数でも土壌を管理することができる。その実現に向けて研究をしています。

基本的に、農業は作物や土壌、雑草などの状況を見て判断し、作業をします。見る(診る)ことが非常に重要で、こういったセンシングを活用していくのは、一つの大きな流れだと思います。

空間的な情報把握がとても大切で、把握ができれば、必要な場所だけに必要な量の肥料を散布することも可能になります。

──それが講演タイトルにもある「G空間」ということですか?

そうですね。取得した情報を集積していくことで、1枚1枚の圃場の特性を理解することができます。今、流行のビッグデータですね。データ化されれば、AIで解析することもできる。そういった応用は、まさに今、始まろうとしています。

G空間のGとはgeoreferenceのことで、位置情報のタグ付けをおこなうことで、一元的にデータを集積することができます。それを「圃場G空間データ」と呼んでいます。これは、新しくて非常にユニークなデータソースです。ただ単純にドローンで圃場を診断するだけではなく、そのデータを集積して活用するわけです。

ドローンを活用したリモートセンシングでデータを集積する。そして、そのデータをAIなどで活用する。AIが注目されていますが、元となるデータがないと役には立ちません。最近では技術の進歩によって、データを集める環境が整ってきている。機が熟していると感じます。

──IoTの農業版のような感じですね。

そうですね。リモートセンシングではなくても、圃場にセンサーをつけてデータを集積する取り組みも出てきています。農業分野でもネットワークの活用は進みつつあると言えますね。

──今後のドローン活用の可能性は?

ドローン市場が急激に拡大する試算が発表されていますが、まだまだ冷静に捉える必要があると思います。機動性や簡易性などドローンならではの優位性はいろいろありますが、順風満帆というわけではなく、改善していくべき課題も少なくないといえます。ドローンの応用場面や性能からすると、長時間の飛行ができない。飛行高度の制約もあり、飛ばせる重量の制約もある。

しかし、日本の場合は農薬散布作業を無人ヘリでおこなってきており、すでに数千機の無人ヘリが普及しています。これは世界トップです。そういった下地がありますので、農薬散布の領域で新たなマルチコプタ型ドローンが普及が進む可能性はあるかと思います。ドローンの場合、静かで小回りが利きますのでメリットも大きい。プログラムでの自律飛行ができますから、それも画期的です。日本が世界をリードする可能性もあると思います。

──今後、どのようにドローンは活用されていくと思いますか?

生産組合や法人など大規模の生産者も増えています。広大な土壌で農業をされている場合、こういった新しい技術を導入することも検討されていくでしょう。敷居が高いように思われるかもしれませんが、費用対効果があればいいわけです。実際に、導入を検討されている農家さんがたくさんいて、私もそういう話をよく伺います。

運用方法についてもいろんな考え方があります。ドローンの機体だけを購入して、データに関するソリューションは業者さんに依頼することもできます。場合によっては、全てを業者さんがおこない、農家さんは結果の情報だけもらうこともできるでしょう。もしかしたら、そのビジネスモデルの方が、農家さんにとっては良いのかもしれません。今はまだこういったサービスを手がけるところは少ないですが、これからだんだん増えていくと思います。

今回、講演でお話させていただく内容は、農家や農業関係者の関心がとても高く、いろんなところから問い合わせをいただく内容です。また、情報系やセンサ系など異業種の方から連絡をいただくことも多いですね。少しでもこの分野の研究に興味を持っている方には、ぜひご参加いただければと思います。背景・ニーズや研究開発の現状とその応用について、主にSIPプロジェクトでの事例を通してわかりやすくお話させていただきます。

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