「伝わる英語」は日本語の吟味から|エンジニアのための伝わる技術英語:第8回(最終回)

英文を作成する際、日本語特有の表現に固執すると、分かりやすく簡潔な英語はなかなか書けません。明確に(Clear)かつ簡潔に(Concise)に書くために、日本語から英語への変換を順を追って見てみましょう。

「木材は、湿っている時と乾いている時では、後者の方がよく燃える。」

 まず、この文章を機械翻訳ソフトウエアにかけてみました。

Wood, when in it is wet and when it is dry, the latter burns well.

この英文を、技術英語のテクニックを使ってどれだけスマートにできるでしょうか。

 初めに考えるのは、文章の核です。この例では「木材は、燃える」です。ここに、条件や程度、比較を表す修飾語句を付けていきます。
1) Wood burns.
  「木材は燃える」
2) Wood burns well.
  「木材はよく燃える」
3) Wood does not burn well.
  「木材はよく燃えない」
4) Wood burns well when it is dry.
  「木材は乾いている時よく燃える」
5) Wood does not burn well when it is wet.
  「木材は湿っている時よく燃えない」
6) Wood burns better when it is dry than when it is wet.
  「木材は湿っている時よりも乾いている時の方がよく燃える」

以上の1)から6)の順で、英訳がひとまず完成しました。

 もとの和文にある「後者の方が」という言葉は、6)の比較級「A than B/BよりもA」で表現されていますので、始めに示した機械翻訳の「後者/the latter」という単語は不要だったことが分かります。

 ごく短い文章であっても、英語を翻訳するとき、いきなり日本語の字句を追ってはいけません。

 次に、できあがった6)の英文だけを眺めてみましょう。すると、和文の「湿っている時」「乾いている時」に引きずられたwhen~の繰り返しが冗長に感じます。もとの日本語から離れて「wet wood」「dry wood」と表現を変えれば、

Dry wood burns better than wet wood.
「湿った木材より、乾いた木材の方がよく燃える」

と7語で書き換えることができます。

 さらに、和文の主旨が「乾いた木材と湿った木材の対比」に無く、「木材は乾燥している方がよく燃える」ことが伝わればよいのであれば、

Drier wood burns better.

とたった4語に凝縮することも可能です。ここまでいくと、今の機械翻訳の技術ではムリでしょう。何を伝えたいかをよく考え、発想の転換を試みることも一つの手です。

適切な単語を選ぶ

 もう1つ例を挙げて、和文の示す意味を解きほぐして書き直してみましょう。

「この部品は、回路Aの電圧が許容範囲を超えることを防止する」
The device prevents the voltage across circuit A from exceeding its permissible limit.

上記は間違いではありませんが、「prevent ~ing/~を防止する、予防する」という熟語が冗長な印象です。言葉を整理して、短く、すっきりした英文にします。

「この部品は、回路Aの電圧を一定の範囲内に調整する」
The device regulates the voltage across circuit A.

 ここでのポイントは、「許容範囲を超えることを防止する」という和文を「一定範囲内に調整する」と捉え直したこと、またそこに使う動詞に「regulate」を選んだことです。

  「調整する」の訳は「adjust」が一般的ですが、「regulate」には「一定の範囲内に収めたり、変動を一定の数値以下に抑えるように調整する」というより具体的な意味があります。単語に含まれる意味やニュアンスをうまく活用すれば、動詞1語ですっきり、かつ力強い表現になりました。

 ノンネイティブである日本人が陥りがちなのは、日本語に引きずられた英語になってしまうことです。辞書や用語集を引いて和製英語やあやふやな略語を取り除くことができても、どうしても残る問題が和文から英訳したために起こる不自然さです。これを解消するには、伝えたい内容をしっかりと吟味しましょう。

 そして、正確・明確・簡潔な英文にするには、何度もリライトすることです。元の和文と見比べるのではなく、3Cの視点で英文だけをじっくり眺めてみてください。

  技術英語は、情報を素早く正しく伝えるためのコミュニケーション手段。決して情報伝達を邪魔しない、シンプルな英語です。この高効率な英語を、多くの方に学んでいただきたいと思います。

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